妊娠糖尿病と言われて「なぜ私が」と落ち込んでいる方や、「どうしてこんなに基準が厳しいの?」と疑問を持っている方もいるかもしれません。
血液中のブドウ糖の量を表す血糖値が高めの状態となる妊娠糖尿病。すべての妊婦のうち12%ほどが当てはまるとされ、今やありふれた病気といえます。
私自身も、過去に妊娠糖尿病と診断されてインスリンを打っていました。今は医療ライターとして、色々な病気の解説を執筆しています。
この記事では、妊娠糖尿病の原因・なりやすい人と、診断基準、治療方法、生活上の注意について分かりやすくまとめました。ぜひ参考にしてください。
妊娠糖尿病はなぜ起こる?
そもそも妊娠すると、誰でも血糖値は上がりやすくなります。
食事で上がった血糖値を下げるのは、膵臓から出るインスリンというホルモンです。ところが妊娠すると、胎盤から出るホルモンがインスリンの働きを抑えてしまいます。胎盤ではインスリンを壊す酵素も作られるため、ますます血糖値が下がりにくいのです。
母体もインスリンをたくさん出そうと頑張りますが、追いつかなければ血糖値は高くなります。そうして一定の基準を超えた場合に、妊娠糖尿病と診断されます。
妊娠糖尿病になりやすい人
妊娠糖尿病を発症しやすい要因には、以下のようなものがあります。
- 肥満
- 年齢(高いほどなりやすい)
- 家族に糖尿病の人がいる
- 自身が妊娠糖尿病になったことがある
- 多胎妊娠
- 多嚢胞性卵巣症候群
- 大きい赤ちゃんを産んだことがある
自分では変えられないものが多いですが、体重ならコントロール可能です。
体重が適正かどうかはBMIで判定します。計算式は「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」です。
たとえば身長155cmで体重50kgなら、50÷1.55÷1.55で、BMIは約20.8。標準体重(BMI18.5〜23)の範囲です。
BMIが25を超えると発症リスクはおよそ2倍、30を超えれば約3.5倍になるとされます。また、妊娠中に体重が増えすぎてもリスクが上がります。
痩せ型の人もなりやすい可能性
糖尿病に関する最近の研究で、肥満の方だけでなくやせ型の若い女性も「糖尿病」のリスクが高いことが明らかになりました。BMI18.5未満のやせ型の女性は、標準体重の女性と比べて、血糖値が高めである「耐糖能異常」が約7倍も多かったそうです。
やせた若い女性は、食べる量や運動量が少なく、筋肉量も少ないケースがあります。こうしたタイプの女性は特に、インスリンが効きにくくい状態になっている場合があるとのこと。妊娠糖尿病との関連は明らかになっていませんが、やせ型の女性もリスクが高い可能性があると考えられます。
妊娠糖尿病の基準は普通の糖尿病より厳しい
妊娠糖尿病の判定は厳しい!と嘆いている方もいるかもしれません。診断基準を以下にまとめました。代表的な糖尿病(2型糖尿病)と比べると、血糖値が低く設定されていることが分かります。
検査項目 | 妊娠糖尿病 1点でも超えたら診断 | 2型糖尿病 どれかを2回以上確認したら診断 | |
血糖値(mg/dl) | 空腹時 | 92以上 | 126以上 |
75gOGTT 1時間値 | 180以上 | – | |
75gOGTT 2時間値 | 153以上 | 200以上 | |
随時 | – | 200以上 | |
HbA1c(%) | – | 6.5以上(1回のみ採用可) |
※HbA1c:過去1〜2ヶ月間の血糖値を反映する血液検査の項目
なぜこんなに基準が厳しいのでしょうか。
妊娠糖尿病の基準が厳しい理由
妊娠糖尿病の基準が厳しいのは、妊婦さん本人だけでなく、赤ちゃんにも影響が及ぶからです。ブドウ糖は赤ちゃんのエネルギー源として胎盤を通過します。血糖値が高すぎても低すぎても赤ちゃんに影響が出るため、なるべく平均的な血糖値に近づける必要があるのです。
妊娠中に高血糖が続くと、帝王切開や早産のリスクが増加したり、赤ちゃんが育ちすぎて難産となったりする可能性があります。赤ちゃんの体内では、エネルギー代謝や発育に関わる遺伝子の調節が起き、インスリンが効きにくい体質となるかもしれません。すると将来、肥満や糖尿病になりやすくなります。
赤ちゃんへのリスクを下げるためにも、血糖コントロールは欠かせません。どのようにコントロールしていくか、次の章で見ていきましょう。
妊娠糖尿病の治療について
ここでは妊娠糖尿病の治療について、簡単に紹介します。
妊娠糖尿病の治療は「しっかり食べてしっかり下げる」のが大切です。ブドウ糖は赤ちゃんのエネルギー源となるため、糖質の制限しすぎは良くありません。
妊娠糖尿病における目標血糖値は以下の通りです。自己測定で日々チェックします。
目標血糖値(mg/dl) | |
空腹時 | 95未満 |
(食後1時間) | 140未満 |
食後2時間 | 120未満 |
血糖値がこの範囲におさまるように、食事療法と運動療法、インスリン療法を組み合わせてコントロールしていきます。
妊娠糖尿病の食事療法
食事療法では、まず目標体重に応じた1日あたりのカロリーを計算します。そして、血糖値が上がりすぎないように食べ方を工夫します。
食物繊維やタンパク質をしっかりとることで、血糖値の急上昇が抑えられます。規則正しく食事をしてもコントロールが難しければ、1日の食事を5〜6回に分割することで1回の食事量を減らし、血糖値の変動を抑えることが可能です。医師や栄養士と相談して行いましょう。
妊娠糖尿病の運動療法
運動には、体内でのブドウ糖の利用を促し、インスリンの効き目を助ける効果があります。妊娠の状況によっては許可されない場合があるため、主治医に確認してから行いましょう。
妊婦さんにおすすめなのは、ウォーキングや体操、ヨガといった有酸素運動です。1日30分程度、週3〜4回が目安です。おなかの張りなどが起きていないか確認しながら、無理せず行うようにしてください。
妊娠糖尿病のインスリン療法
食事療法と運動療法で血糖値が落ち着かない場合は、インスリンの自己注射を検討します。内服薬だと胎盤を通過し、赤ちゃんに影響してしまうため、妊婦さんには通常胎盤を通らないインスリンが適しています。インスリンを始めると食事制限を緩められるので、かえって楽に感じる方もいるでしょう。
治療の中心となるのは、打って1時間程度で効果が最大となる「超速効型インスリン」です。朝食後に血糖値が高くなりがちなら朝食直前に打つなど、血糖値に合わせて指示されます。病院によっては、入院して血糖値を測りながら量を調整するかもしれません。
空腹時の血糖値が高ければ、持続的に効果を発揮する「基礎インスリン」も補充します。
妊娠糖尿病では、週数が進むにつれて必要なインスリン量が増えていきます。初期には必要なかった妊婦さんが、中期や後期でインスリンを始める場合もあります。
妊娠糖尿病の産後の注意
出産により胎盤が出ていくと、インスリンは一気に効きやすくなります。このため産後すぐは血糖値は落ち着いていることも多いのですが、妊娠糖尿病になった方は、将来糖尿病を発症する可能性が6倍以上に上がるとされます。産後に気をつけるポイントを確認していきましょう。
まず、可能ならば母乳育児をおすすめします。母体のエネルギーが消費され、血糖値が下がる効果があるからです。妊娠中に付いた脂肪を減らす効果もあるため、体重減少も期待できます。
検査については、産後6〜12週頃に75gOGTTの検査を受けましょう。そして、この時点で異常がなくても、半年〜1年ごとに血液検査を受けて経過を追うのが望ましいです。
生活面では、妊娠中に身につけた食事や運動の習慣をぜひ継続しましょう。肥満の方は適正体重を目指し、やせ型の方は筋肉をつけるのが大切です。赤ちゃんの体重を生かして遊びながら運動したり、お散歩や通園で歩いたりすると、生活の中で無理なく体を動かせるでしょう。
まとめ
妊娠糖尿病になりやすい人と、治療方法、生活上の注意などを見てきました。
読んでくださった方の中には、診断にショックを受けている方もいるかもしれません。しかし、妊娠糖尿病の大きな原因は胎盤の働きです。あまり自分を責めないでほしいと思います。
一方で、将来糖尿病になる可能性が高いことが、妊娠糖尿病によって分かりました。今から食事や運動に気をつかうことができるのは、大きなメリットです。
ぜひ「赤ちゃんが教えてくれた」と前向きに考えて、治療に向き合ってみてください。